4月10日



すこし前のこと、春の森を恋人と歩きながら、嘘みたいなあかるさに目が眩んだ。

森を抜けた先のなだらかな丘には多くの人がいた。テニスやサッカーをする子どもたち、ボールで遊ぶ親子、ブルーシートを敷いてお弁当を食べる夫婦、犬とジョギングする外国人、浴衣姿で桜を眺める女の子たち、皆がめいめいにゆったりと過ごす中を、たっぷり時間をかけて歩いていると、町中のことはみんな嘘だったのでは、と思えた。

普段は部屋からちっとも出ようとしない出不精の恋人が、「カメラをかして」と言ってホトトギスやチョウチョウを撮り、桜の枝に手を伸ばしている。隣を歩く恋人の、ころころと丸い後ろ頭(恋人の後頭部は世界一だとおもう)を目で追いながら、そこらじゅうにたくましく伸びる草花の名を教えてあげた。スミレ、シロツメクサ、ホトケノザ、オオバコ、アブラナ、カタバミ──夏休みの自由研究で野花の図鑑をつくったことを思い出した。

3月からただ静かに、店をひっそりと開けては閉め、丸まって眠る日々だ。今までと暮らしぶりは変わらないものの、そうでない人が、たしかにいるのだと思い知る。ぽつりぽつりとやってくる人たちと、やはりすこし離れてほんの短い会話をすることが、どうしたって家にいることがゆるされない人たちの何かしらの支えになっていれば、と願ってしまう。




aoyagi haruko

とるにたらない日々